子どものための小さなクラシック音楽〜読み聞かせのように音楽に親しむ体験を〜

以前、「聞いて楽しむお話の世界」のコラム記事でも紹介した、大塚勇三さんが訳・再話を手がけた世界の昔話20話が収められている『ねえねえ、今日のおはなしは…』を、我が家の子どもたちに読んでいて気づいたことは、どんなに小さなお話でも物語の構造がとてもしっかりしていること。

冒頭…状況の設定と、主人公の紹介
発端…問題発生、状況の複雑化
山場…展開部分→問題との戦い、葛藤
クライマックス…転換点、問題の克服
結末…問題の解決、問題の終焉

大塚さんの再話の力と共に、物語の基本構造がしっかりとあることによって、次の展開への期待値の高まりと物語の世界への集中力が途切れることなく引っ張っていけるのだと思いました。

そして、このような構造のしっかりとした小さく短い物語を何度も何度も読んで聞かせるうちに、少しずつ心が鍛えられ、幼年童話の世界へ、長編小説の世界へと長い物語にも耐えうる力を持つことができるようになるのだろうと思います。

物語に慣れ親しんでいないのにいきなり「これ面白いよ」とハリーポッターのような分厚い本を渡されても、抵抗感が生まれてしまうのはごく自然なこと。

それと同じことが、音楽にも言えます。
クラシック音楽に慣れ親しんでこなかった人に「これすごくいい音楽だよ」とベートーヴェンのピアノソナタやシンフォニーのような30分ほどのボリュームのある曲をおすすめされても、聴いているうちに眠くなってくることでしょう。

そして物語と同じく、音楽にも構造があります。
いくつかありますがよくある形式としては三部形式。

提示部…主題の提示
展開部…主題の変形、魅せ場
再現部…主題の回帰

ソナチネもソナタもシンフォニーにも使われている王道の形式です。
物語と同じようにどんなに小さな作品でも、どんなに大きな作品でも構造が崩れることはありません。

長年読み継がれる昔話や絵本、幼年童話と同様、長く親しまれている子どものために作られたクラシックの小品も、作りそのものはシンプルでも非常によくできていて、大人が聴いても素敵だと感じる作品が沢山あります。

そして物語も音楽もその構造を子どもたちは、頭で考えるのではなく、耳で聴いて、心で感じて、楽しみます。
何度も聴いているうちに予測もするようになる。

段階を踏みながら鍛えて楽しむ。
これはあらゆることに共通することだと思います。

物語や音楽のような感覚や思考に関することに限らず、例えば歩くことのような身体的なことも。
少しずつ体力をつけて鍛えるからこそ遠足を楽しめるようになるのも同じです。

鍛える、と言い方をすると、なんだかストイックな印象を抱かれてしまいそうでちょっと使うことを躊躇しますが、子ども達にとっては日々の遊びも読み聞かせも、全ては生きる力を鍛えていることとイコールです。

物語の読み聞かせと同じように、音楽も小さな作品から慣れ親しんでもらうような体験を作れないか…
その思いを形にする場所のひとつが、6月からスタートする“カフェといろいろ びより”で開催する「フルートとピアノでワクワク音あそび!よくばりアソートコンサート」です。
ピアノを習っていない人にとってはおそらく耳にすることのない、小さな愛おしい作品の数々を少しずつご紹介していく予定です。

万人にクラシック音楽を好きになってもらいたい
とは私は思っていませんが、それでも、もしかしたら好きになっていたかもしれないのに経験の土台がなかったために興味の対象にすらならないのも
、もったいないな、と思うのです。

そして、好き、嫌いを置いておいたとしても、読み聞かせのように音楽に慣れ親しむ経験は「聴いて、感じる心」が少なからず、より敏感なものになるはずだと思っています。

微々たる種まきではありますが、長年クラシック音楽の世界で生きてきた私が、自分を育ててくれた世界への恩返しとして、できることをしていきます。